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さよならうさ太 さよならきにろ

その日がやってきました
夕方運転手はきにろを迎えにやってきました
「さあきにろさんいよいよですよ」
きにろは緊張した顔でうなずきました
「ほうきをわすれないようにね」「忘れるなんてそんなことないですよ」
「それとシチュー鍋ももってください」きにろは不思議そうに「鍋?」といいました
「そうですよ それは大事な鍋です 必要になるときが必ずきますからね」
きにろはシチュー鍋をきれいに洗いました
「ここに何冊か本がありますね・・・これはこのままではいけません きにろさん魔法で本の中身を消してしまってください」
「なぜ消さなければいけないの?」「ここはもうじき開発がすすみます 人間さんになにか見られたら困ることもあるかもしれないからです」
「魔女ばあちゃんが困るのでは?」「大丈夫ですよ 魔女ばあちゃんはこういうことは何度も経験していますからね」
きにろは魔法をかけ本の中身を消しました でも一冊だけ消えないものがありました でもきにろは気が付きませんでした
魔女ばあちゃんもうっかり力をかすことをしなかったのです その一冊の本はやがてひとりの人間さんの手に・・・

運転手ときにろは家の中をみまわしました「あっ・・・きにろさんエプロンをしてポケットに若返りの薬草をいれてください
魔法のほうきに必要ですからね」きにろは言われた通りにしました
きにろは魔女ばあちゃんの家にさよならをしてバスに乗ってうさ太の家にむかいました

うさ太は家の中をきれいにかたずけていました
ふとんをたたみ棚にいれきれいに洗ったタオルもいれました
掃除機をかけ台所もきれいにしテーブルもきれいにふきました こんちゃんの入ったビンと月の香りのびんと並べておき
「大丈夫だよ ママはちゃんと迎えにきてくれるからね」と心の声ではなしました
うさ太は自分のからだの色がクリーム色になったのはわけがあるんだなと思いました
ゆう太はおすわりができるようになりカチャカチャと音のするおもちゃで遊んでいます うさ太の遊んでいたおもちゃです
かあちゃんが作ってくれたものです
日が暮れてきました ゆう太はまだおきています「まだきにろさんたちはこないんだね」とつぶやきました
遠くでバスの走る音が聞こえ始めました
するとゆう太はコロンと横になると眠り始めました うさたはゆう太をだきあげました
「そろそろきたようだね」つぶやくとドアを見つめました
カタンと小さな音がしてドアがあきました
ほうきを持ったきにろとシチュー鍋を持った運転手がはいってきました
「おやおやきれいにかたずけましたね」「はい・・・もうお別れだから」うさ太はちょっとさみしげな顔をしました
「わたしも家をかたずけてきましたよ」きにろもふっと遠くを見るような顔になりました
「ふたりは地球育ちだから別れはつらいでしょうね・・・でも月もなかなかいいものですよ」運転手はなぐさめるような口調になりました
「うさ太さん白いエプロンをしてください」「はい」運転手に言われうさ太はゆう太をしたにおろそうとするときにろが手をのばし抱いてくれました
エプロンをすると運転手はエプロンの裾を胴のひもにしばりつけ「きにろさんほどけないように魔法をかけてくださいね」ととたのみました
きにろは魔法の言葉をいいました「さあこれでいいですよ ゆう太さんをエプロンにいれてください ここにいれておけば安全ですからうさ太さんは
ほうきにしっかりつかまっていてくださいね」
きにろがゆう太をエプロンにいれました そしてほうきの準備をしはじめました
「お月様に行ってかあちゃんにいっぱい甘えてくださいね」運転手は小さい声でいいました
するとうさ太は運転手に抱き付き(本当は抱きしめたんだけどうさ太のほうが小さいのでだきついたみたいになっちゃんだよ)
心の声でなにか言いました すると運転手はびっくりし同じように心の声でこたえました
このやりとりはきにろは気が付いていなかったのですが魔法のほうきは気が付いたようですね
「さあうさ太も乗ってよ」きにろが声をかけたのであわててうさたはほうきに乗りました
「準備はいいですね しっかりつかまってくださいよ」運転手はそういうと壁のうすいバリアをバリバリとはがし
二人をくるむようにかぶせました「これでくるめば息が苦しくはならないでしょう まあこれがないからって長耳族にはどうってことないんですけどね さあ出発してください」その声できにろは窓から飛び立ちました
ゆっくりと・・・徐々にスピードを上げ・・・だんだん高く高く・・・さらにスピードを上げ・・・
やがてその姿は小さくなり・・・さらに小さくなり・・・やがて点になりついに見えなくなりました
運転手はじっと空を見上げ目元をふきました
さよならうさ太 さよならきにろ・・・

 


二人は兄弟

きにろが言いました「うさ太は月に行くのは不安じゃないの?¥・・・うさ太にはかあちゃんがいるか・・・」わたしとはちがうね」
「きにろさんは不安なの?」「・・・わたしは月にはなにもないからね・・・記憶も思い出も知り合いもいない」
「だけどおらとは兄弟じゃないの」「えっ?」きにろはうさ太の言葉に驚いた顔をしました
「きにろさんよおらは同じ赤ちゃんもちから生まれたんだよ だから兄弟だよ ひとりじゃないよ」
その言葉にきにろはニコニコとして「兄弟か~ウフフ」とうれしそうでした
うさ太は「きにろさんにもかあちゃんがいるよ」といいそうになりました すると(時の流れは流れるままに)と
心の中に聞こえてきました 「うん」うさ太はうなすくと言葉をのみこみました
このごろうさ太はいろんなことがみえてきていたのです でも・・・時の流れは流れるままにしましょう
やがてわかるときがきますからね

「さて・・・きにろさんそろそろ帰りますよ」運転手のことばにきにろはパンを口の中につっこみました
「アハハそんなにいそがなくても・・・残りは家に持って帰りゆっくりたべればいいですよ」
うさ太も笑いました (きにろさんってかわいいね)

「それでは・・・」運転手はうさ太をはげますように見ました

「はい」うさ太もしっかりと返事をしました
二人は帰って行きました バスの走る音が聞こえました
「アウウ~~」ゆう太が目をさましました
「ウフフそういうわけだったんだね」うさ太はゆう太がすぐ眠ってしまうわけがわかりました
「ほらゆう太・・・これがクリームだよ この味をしっかり覚えておくんだよ きっとやくにたつからね」
クリームパンのクリームをほんの少しなめさせました
ゆうたはぺろぺろとなめました
チョコレートパンのチョコレート メロンパンのカリカリ部分 ゆう太はその味を記憶しました
これも時の流れですね やがていつかゆう太はこの味を思いだして・・・

それからきにろは毎晩ほうきに乗って高く飛んだり風の吹く夜もヨロヨロしないように飛ぶ練習をしたりと
がんばりました
うさ太はゆう太にしっかりおもちを食べさせました「ああちゃん」ゆう太はうさ太を呼ぶようになりました
からだも少し大きくなりしっかりしてきました
そしていよいよその日がやってくるのです・・・うまくお月さまに行けるのでしょうか


うさ太脱出計画

「おらはゆう太と地球に残ってもいいんだよ ゆう太がお月様に戻れる日までおらはずっとそばにいようと思ってるよ」
「でもそうしたらうさ太は月に戻るチャンスがなくなってしまうんだよ」
「うんわかってるよ それでもいいと思ってるよ」
「それじゃうさ太はひとりぼっちになってしまうんだよ」きにろが泣きそうになりながら言いました
「うん・・・そうだね でもそれでもいいと思ってる」うさ太はゆるぎない強い言葉でこたえました
「うさ太さんわたしがどんなことをしても月にかえしてあげます もちろんゆう太さんも一緒です」運転手は
きりっとした声で言いました
うさ太はじっと運転手を見つめました「そっか・・・やっぱり・・・うんわかったよ 運転手さんにまかせるよ・・・ありがとう」

「このあいだきにろさんが言った掃除機のことを調べて見たのですよ 確かに馬力があるし丈夫そうだし・・・でも
それはこの地球上においてはですよね 本当に強ければきっとロケットにもつかわれたでしょう でもそれはないところをみると
宇宙ではもろいのかもしれません そこでまた考えたのです 強いものはなにかと・・・それは何といっても魔法の放棄です」
「えっ?魔女ばあちゃんの?」「そうですよ 大昔月からこの地球にとんできたのですよ それに今もちゃんと飛んでいるのですよ」

「それはそうだね」きにろも納得したようにうなづきました
「そこでうさ太さんの脱出にはほうきを使おうと思います」運転手の言葉にうさ太は「ほうきで月まで飛んで行くんだね・・・ゆう太も一緒ならおらはこわくないよ」
強く言いました
「これからきにろさんにはほうきの操縦の腕を上げるために練習にはげんでもらいます」「わたしが操縦するんですか・・・」
「そうですよ うさ太さんはできませんからね」
「わたしで大丈夫でしょうか」「大丈夫ですよ きっと魔女ばあちゃんも力をかしてくれるでしょうから」
「そうだよ きにろさん大丈夫だよ 魔女ばあちゃんはいつだってきにろさんを助けてくれるよ」うさ太は革新があるようにきにろをはげましました
運転手はちょっと不思議そうにうさ太を見つめました
「おらはなにをすればいいの?」「うさ太さんはしっかりゆう太さんを育ててください・・・十日後くらいには脱出する予定ですから」
「わっそんなに早いの?」きにろはびっくりしました
うさ太もびっくりして顔で運転手を見つめていました
「きにろさんもうさ太さんも地球育ちのせいか小柄です ゆう太さんがあまり大きくならないうちのほうが負担が少ないうちがいいでしょう
今ではちょっと小さすぎますからね」
みんな言葉がなくなりそれぞれ考えこんでいました
「さあ・・・パンを食べてください」運転手がいいました
でもきにろもうさ太も手が止まったままでした


まだある秘密?

「いなくなった赤ちゃんってきにろさんだね」うさ太が言うと「どうしてわたしなの?」きにろが不思議そうな顔を
しました「うむ・・・どうしてきにろさんっていえるのですか?」運転手もききました
「だってわたしは赤ちゃんのときに落ちてきたんではないですからね」きにろの言葉にうさ太はこたえました
「きにろさんの頭の傷は傷ではなくて・・・傷に似せてつけられていただけだったもの」
「えっ?」きにろと運転手は奇妙な顔をしました
「だからおらは字を消すように左手でさわっただけだよ」
「字を消すって・・・うさ太さんは字を知っているのですね」運転手がきくと「うんかあちゃんからおしえてもらったよ・・・きにろさんにもおしえてよ」
「はいはいわたしもおしえてもらいました」
「灰色さんたちは知らないけれど白色も黄色も字はしらないんですよ かあちゃんはどうしてしっていたのでしょう」
「水晶玉でお勉強したんだよ」「・・・なるほど・・・」運転手はまだ不思議そうな顔をしていました
「確かに長靴には名前が書いてありましたね・・・」
「だけどどうしてわたしがその赤ちゃんだっていうことになるのですか?」「きにろさんの記憶の中に
女の人に抱かれている赤ちゃんの姿がみえたから・・・そのときはきにろさんのかあちゃんだと思っていたけど
おらたち長耳にはかあちゃんがはいないってことらしいからそれはきにろさんが地球で経験したことだろうと思って」
「わたしの記憶は魔女ばあちゃんに助けられたときからしかないけど赤ちゃんのときに落ちてきたのだろうか」
「その女の人は人間さんなんですか?」運転手が聞くと「違うと思う」うさ太はちょっと困ったように目をそらせました
「じゃあ長耳さん?」きにろが聞くと「まあ・・・そんなところかな」うさ太はやはり目をそらせたままでした
運転手は「そういうことか・・・」と小さくつぶやきました
「じゃわたしは赤ちゃんのときはかあちゃんに育てられていたんですね・・・どこで?」きにろが首をひねっていると
運転手が「そのうち思い出すでしょう・・・それよりうさ太さんの脱出計画をたてませんか?」と話をかえました
「おらの脱出計画?」「そうそうわたしたちはそれを考えるために集まったんですよ」きにろも話をかえました
「さあさあパンも食べてくださいね」すっかり手がとまっていたふたりはまたおいしいパンを口に運び始めました

「なんとかうさ太さんをゆう太さんと一緒に月に行かせたいと思っているんですよ もうかなしい思いはしてほしくないものですからね」
運転手の言葉にうさ太は「ほんよなの?ゆう太と一緒にかあちゃんのいる月にいけるの?」
「なんとしても一緒に行かせますよ」運転手は固い決意の顔でこたえました


月の大事件

かあちゃんと赤ちゃんけむりが時空の穴に吸い込まれたときに生まれた赤ちゃんは白色さんが二人と黄色さんが一人でした
赤ちゃんを抱いた大人たちは大急ぎで筏に飛び乗りました
灰色さんが時空の穴を捕まえて遠くに固定したと聞いてもいなくなったかあ太を思いみんなしんみりしていました
かあ太が赤ちゃんとしばらく地球で暮らすことになったことは安心とともにさみしさでもありました
特にか太を大好きだったうさ太はとてもさみしがりそのぶん新しい赤ちゃんをとてもかわいがりました
そんなある日「きゃ~~~~」うさ太の叫び声が響きました
「ぽん太がぽん太がいないよ~~~」
黄色さんの赤ちゃんがいないというのです「えっ?」筏にいたおとなたちはびっくりしました
「あれれ?わたしのそばで寝ていたはずなのに・・・いないいないよ~~~」「おらとふたりではさんでねていたよね~」
もうひとりのおとながいいました
「こっちには白色さんの赤ちゃんがちゃんとふたりいるよ」別のおとながいいました
おとなたちの間にはさんで寝ていた赤ちゃんがいなくなる?まだ動くこともできない赤ちゃんがどこにいくっていうの?
筏中さがしました 筏の囲いはおとなでもやっと乗りこえられるくらいの高さがあるんです
はうこともできない赤ちゃんがどうやって乗り越えるというのでしょう
灰色さんにもたのんでバリアの外までさがしてもらいました
でも赤ちゃんはみつかりませんでした みんな泣きました 大事な赤ちゃんがいなくなってしまったから
特に黄色族は一人しか生まれなかったので哀しみはすごいものでした
かあ太がいなくなったのに赤ちゃんまで・・・・いったいどこにいってしまったのでしょう

それからしばらくしてから灰色さんが「時空の穴は消えてしまいましたよ 固定したことが原因かもしれません また地球でなにかあれば危険なものがうまれるかもしれないし
相変わらず危険なものが流れてくるのでバリアはもう少し厚くする必要があるかもしれません」
あんなに平和でのんびりとしていた月なのにさまざまな試練がふりかかってくるようになってしまいました