まだある秘密?

「いなくなった赤ちゃんってきにろさんだね」うさ太が言うと「どうしてわたしなの?」きにろが不思議そうな顔を
しました「うむ・・・どうしてきにろさんっていえるのですか?」運転手もききました
「だってわたしは赤ちゃんのときに落ちてきたんではないですからね」きにろの言葉にうさ太はこたえました
「きにろさんの頭の傷は傷ではなくて・・・傷に似せてつけられていただけだったもの」
「えっ?」きにろと運転手は奇妙な顔をしました
「だからおらは字を消すように左手でさわっただけだよ」
「字を消すって・・・うさ太さんは字を知っているのですね」運転手がきくと「うんかあちゃんからおしえてもらったよ・・・きにろさんにもおしえてよ」
「はいはいわたしもおしえてもらいました」
「灰色さんたちは知らないけれど白色も黄色も字はしらないんですよ かあちゃんはどうしてしっていたのでしょう」
「水晶玉でお勉強したんだよ」「・・・なるほど・・・」運転手はまだ不思議そうな顔をしていました
「確かに長靴には名前が書いてありましたね・・・」
「だけどどうしてわたしがその赤ちゃんだっていうことになるのですか?」「きにろさんの記憶の中に
女の人に抱かれている赤ちゃんの姿がみえたから・・・そのときはきにろさんのかあちゃんだと思っていたけど
おらたち長耳にはかあちゃんがはいないってことらしいからそれはきにろさんが地球で経験したことだろうと思って」
「わたしの記憶は魔女ばあちゃんに助けられたときからしかないけど赤ちゃんのときに落ちてきたのだろうか」
「その女の人は人間さんなんですか?」運転手が聞くと「違うと思う」うさ太はちょっと困ったように目をそらせました
「じゃあ長耳さん?」きにろが聞くと「まあ・・・そんなところかな」うさ太はやはり目をそらせたままでした
運転手は「そういうことか・・・」と小さくつぶやきました
「じゃわたしは赤ちゃんのときはかあちゃんに育てられていたんですね・・・どこで?」きにろが首をひねっていると
運転手が「そのうち思い出すでしょう・・・それよりうさ太さんの脱出計画をたてませんか?」と話をかえました
「おらの脱出計画?」「そうそうわたしたちはそれを考えるために集まったんですよ」きにろも話をかえました
「さあさあパンも食べてくださいね」すっかり手がとまっていたふたりはまたおいしいパンを口に運び始めました

「なんとかうさ太さんをゆう太さんと一緒に月に行かせたいと思っているんですよ もうかなしい思いはしてほしくないものですからね」
運転手の言葉にうさ太は「ほんよなの?ゆう太と一緒にかあちゃんのいる月にいけるの?」
「なんとしても一緒に行かせますよ」運転手は固い決意の顔でこたえました


月の大事件

かあちゃんと赤ちゃんけむりが時空の穴に吸い込まれたときに生まれた赤ちゃんは白色さんが二人と黄色さんが一人でした
赤ちゃんを抱いた大人たちは大急ぎで筏に飛び乗りました
灰色さんが時空の穴を捕まえて遠くに固定したと聞いてもいなくなったかあ太を思いみんなしんみりしていました
かあ太が赤ちゃんとしばらく地球で暮らすことになったことは安心とともにさみしさでもありました
特にか太を大好きだったうさ太はとてもさみしがりそのぶん新しい赤ちゃんをとてもかわいがりました
そんなある日「きゃ~~~~」うさ太の叫び声が響きました
「ぽん太がぽん太がいないよ~~~」
黄色さんの赤ちゃんがいないというのです「えっ?」筏にいたおとなたちはびっくりしました
「あれれ?わたしのそばで寝ていたはずなのに・・・いないいないよ~~~」「おらとふたりではさんでねていたよね~」
もうひとりのおとながいいました
「こっちには白色さんの赤ちゃんがちゃんとふたりいるよ」別のおとながいいました
おとなたちの間にはさんで寝ていた赤ちゃんがいなくなる?まだ動くこともできない赤ちゃんがどこにいくっていうの?
筏中さがしました 筏の囲いはおとなでもやっと乗りこえられるくらいの高さがあるんです
はうこともできない赤ちゃんがどうやって乗り越えるというのでしょう
灰色さんにもたのんでバリアの外までさがしてもらいました
でも赤ちゃんはみつかりませんでした みんな泣きました 大事な赤ちゃんがいなくなってしまったから
特に黄色族は一人しか生まれなかったので哀しみはすごいものでした
かあ太がいなくなったのに赤ちゃんまで・・・・いったいどこにいってしまったのでしょう

それからしばらくしてから灰色さんが「時空の穴は消えてしまいましたよ 固定したことが原因かもしれません また地球でなにかあれば危険なものがうまれるかもしれないし
相変わらず危険なものが流れてくるのでバリアはもう少し厚くする必要があるかもしれません」
あんなに平和でのんびりとしていた月なのにさまざまな試練がふりかかってくるようになってしまいました


かあちゃんの覚悟

うさ太は話を聞きながらポロポロ涙をながしました
「かあちゃんはおらのためにまだこどもなのにかあちゃんになってくれたんだね おらのゆう太のいいかあちゃんにならなければいけないよね」
運転手は顔をそむけました まるで涙を隠すかのように・・・
そしてまた話をつづけました

赤ちゃんうさ太はかあちゃんの腕の中で気持よさそうに眠っていました
そっと布団に寝せようとすると「新しい布団を持ってきたんだよ」と黒色さんは袋からかわいい布団を取り出しました
「まあ・・・」かあちゃんはうれしどうにうさ太を寝せました
すると黒色さんは黄色いタオルを出しうさ太にかけました「やわらかい・・・」かあちゃんはさらにうれしそうな顔をして
うさ太を見つめました
「おまえのぶんもあるからね」少し大きめの布団を取り出しさらに白いフワフワのタオルもだしました
「これがわたしのふとんなんですね・・・なんて気持ちがいいのでしょう」かあちゃんはほおにタオルをあてながらうっとりしました
「地球では暗くなると寝て明るくなると起きるんだよ・・・赤ちゃんは別だけどね」
「はい」かあちゃんはうなづくと自分の布団はたたみました
「昼間は水晶玉で人間さんのことやこのあたりのことを勉強するといいね うさ太もねむっていることが多いだろうkらね」
「はい・・・必要なことですからしっかり勉強します」かあちゃんはキリリとした顔になりました

それからかあちゃんはうさ太が寝ているときは水晶玉で地球のこと人間さんのこと近所の様子などいろいろ勉強しました
かあちゃんとうさ太が新しい生活を始めたころ月では大事件がおきていました


かあちゃん誕生

かあちゃんは「コトッ」という小さな音で目をさましました
黒色さんがほうきを立てかけた小さな音でしたが長耳の敏感な耳には聞こえてしまったのです
キョトンとした顔で黒色さんを見ていましたが月から落ちた悲しいことを思い出しました
「よく眠られたかい?」「・・・はい」かあちゃんは小さい声で答えなした
「それはよかった・・・おなかがすいただろ?おもちを持ってきたからこちらにきて食べるといいよ」
テーブルにおもちの入った箱を置き足元におおきな荷物をおきました
かあちゃんは起き上がって赤ちゃんをだこうとすると「赤ちゃんがおきてから食べさせればいいからおまえは先にたべなさい」と言いました
箱の中には小さなおもちとさらに小さなおもちがはいっていました
小さなおもちを手に取ると「いただきます」と口にはこびました
「明日からはここにおもちが届くからね」「はい」
黒色さんは四角いものを出しました「これは知っているね」「はい・・・水晶玉ですね」「ウム・・・水晶玉だけど月で地球をみているものとは違う働きをするんだよ」
「?違うものが見えるのですか?」「そうだね・・・見えるというより知らないことを調べるものなんだよ」
「調べる?」「これからしばらく地球で暮らさなければいけないからいろいろ人間さんのことやこのあたりの様子を知っておかないとね」
「ここにいれば安全なのではないのですか?」「そうここは安全だけどこの中にずっといるだけでは退屈してしまうだろうね・・・」
「外に行くってことなのですか?」
黒色さんはうなずいて四角い水晶玉をかあちゃんの方にむけました
「人間さんって心の言葉で言ってごらん」かあちゃんは言ってみました
水晶玉の画面になにかでました「これに右手をあててごらん」かあちゃんは右手をそっとあててみました
「わかったかい?」かあちゃんの頭の中に人間さんのことがはいってきました
「フワァ~~すごい」「わからないことや知りたいことがあったらこうやって調べるといいよ」
かあちゃんは頷きました「今度は人間さんの親子って思ってごらん」
「はい・・・」またなにかでました 右手をあてると頭の中に不思議なことがでてきました
「赤ちゃんはおかあさんがってひとが・・・おかあさん?」かあちゃんは首をかしげました
「赤ちゃんの名前はかんがえたかい?」「・・・わたしが名前をつけてあげなければね・・・うさ太・・・うさ太にします」
「うさ太・・・いい名前だね」「はいお月様にいたときの仲良しだった赤ちゃんの名前です」
「・・・ふむ・・・ところでお前の名前は?」「わたしはかあ太といいます」
そのとき「かあちゃ・・んかあちゃ・・・ん」赤ちゃんうさ太が声をだしました
「ウフフ・・・お月様のうさ太も最初は口がうまくまわらなくてわたしをかあちゃってよんだんです」
「いや・・・かあちゃじゃなくてかあちゃんってよんでいるようだねぇ」
「えっ?かあちゃんておかあさんのことですね・・・なぜ?」
「うさ太にもおもちを食べさせてあげなさい」「はい」ぁあちゃんはうさ太を抱き上げおもちを口元にもっていき「あらおもちが大きすぎます」
黒色さんがおもちを二つにわけてくれました「うさ太お食べなさい」かあちゃんは小さくなったおもちをうさ太に食べさせました
おいしそうに食べ「かあちゃん、かあちゃん」今度ははっきり言いました
「まあ・・・わたしをかあちゃんって・・・うさ太わたしがおかあさんになってあげましょうね」
黒色さんはこどものかあちゃんが少し大人になったのがわかりました


t地球でのはじまり・・・

運転手の話を聞きながらうさ太は泣いていました
「うさ太どうしたんだい?」きにろが心配気に聞きました「おらのせいでかあちゃんは落っこちたんだよ
それなのしおらはかあちゃんがお月様に行っちゃったのをおらは恨んだよ おらをおいてくなんてひどいやって」
運転手はちょっと困った顔をしてまた話をつづけました
「なんて小さな赤ちゃん!!」かあちゃんはおどろいていました
「そうだね・・・でもりっぱな黄色族だよ・・・青いきれいな目と黄色い肌は黄色族そのものだ」
赤ちゃんは青い目でかあちゃんを見つめていました「かわいい~」かあちゃんはうれしそうに笑いました
しばらくパタパタ手足を動かしたいた赤ちゃんはやがて眠ってしまいました
「赤ちゃんも寝たことだしおまえも休むといいね・・・疲れただろうし」
「はい」かあちゃんはそういうと赤ちゃんを床に置きその隣に横になりました
月にいたとき筏の上では皆そうして寝ていたからです
「地球では布団というものを使うんだよ・・・ほらその棚にはいっているだろう」「布団?」かあちゃんはキョロキョロしました
黒色さんは棚から布団をだしました「ああ・・・これはあまりふたりにはあわないね・・・ちゃんとしたのをもってきてあげようね」
なにしろこんな小さな子が落ちてきたことがないので大きな大人用の布団でした
大きな布団にふたりを寝せ白いおおきなタオルをかけてやりました「気持ちのいいものですね」かあちゃんはそう言いながらうとうとしはじめやがて眠ってしまいました
「フフフやっぱりこどもだね・・・かわいそうにこれから長いあいだこうやって地球で生きていかなければならないんだ」
黒色さんはそっと窓からほうきに乗って帰っていきました
小さなこどもともっと小さな赤ちゃんを空から月が見つめていました